大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和47年(ラ)684号 決定 1973年8月15日

抗告人 丸山幸輔

右代理人弁護士 松井道夫

相手方 直江津海陸運送株式会社

右抗告人から、新潟地方裁判所高田支部が同庁昭和四七年(ヒ)第五号検査役選任申請事件につき昭和四七年七月七日なした申請棄却決定に対して、即時抗告があったので、当裁判所は、次のように決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙に記載したとおりである。

抗告の理由一について

しかしながら、非訟事件手続法一二九条の二の法意は、方法のいかんを問わず取締役及び監査役につき、その意見を知りうべき方法を講じたうえ決定すべきことを命じたものと解すべきであるから、同人らにつきその意見を知りうべき適当な方法を講ずれば足り必ずしも同人らを呼び出し直接その陳述を聴く必要なく同人らに対し意見書の提出を催告し同人らの提出した意見書その他の書面による陳述に基づきその意見を知るのもひとつの適当な方法というべきであるから、原裁判所が原決定をするにあたり相手方会社の取締役については昭和四七年六月一〇日の審問期日において同社取締役吉岡武憲の陳述を聴取し、相手方会社の監査役については同年六月三〇日送達の陳述催告書により同社監査役小出幸作に意見陳述を催告し、同年七月五日同監査役から同月四日付陳述書の提出があり、原裁判所はこれらの陳述書の提出を含む陳述を聴取して原決定をなしたことは記録上明らかであるから、抗告人のこの点に関する主張は理由がない。

抗告の理由二について

しかしながら、前記法条により陳述聴取をなすべき取締役及び監査役は抗告人主張するように不正の業務執行に関与した者であるかどうかにかかわりなく裁判所が自由な裁量でその陳述聴取をなすべき者を定めることができるのであって、もともと右取締役及び監査役の陳述は、同法条による申請についての意見の聴取をすることを目的とするものであって、抗告人が主張するように証拠方法としてのみその陳述を聴取するものでないことは勿論である。したがって、原裁判所において陳述聴取を行なった取締役につき抗告人が相手方会社の取締役として不正の業務執行をなしたと主張していたとしても、その者の陳述聴取を排して抗告人の主張する業務に関与しない他の取締役の陳述聴取を行なったとしてもその指摘の業務執行についての意見を前記取締役より具体的かつ詳細に聴取できないことは理の当然であるのみならず、これら陳述は同法条の裁判をするにあたり裁判所を拘束するものでないから、裁判所が陳述聴取を適当とする者を定めてこれが聴取を行ない、抗告人主張の取締役の陳述聴取を行なわなかったことに特に不公正な事情も認められない本件においてはその旨の陳述聴取を行なわないで決定したことに何らの違法はないので、抗告人のこの点に関する主張も理由がない。

抗告の理由三について

(1)抗告はまず、相手方会社の前取締役野原正外三名の取締役はその在任期間中の昭和四三年度ないし昭和四五年度の三年間において各事業年度の株主総会承認の利益処分としての役員賞与の外に株主総会の承認なしに各年夏期及び年末に賞与として合計金三二八万円を相手方会社から支出して二重に役員賞与として取得し、これが金額を各事業年度の営業報告書に一般管理販売費に含ましめ必要経費として落したように記載して、各期の株主総会に提出して株主を欺罔して着服したと主張するところ、抗告人主張の金員を前取締役野原正外三名に対し相手方が支払ったことは相手方も認めるところであるが、甲第三号証の三ないし五、第四号証の一ないし三、第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし六、乙第七号証、同第一七号証及び記録中の相手方会社定款(記録一三九丁以下)、原審における被審人吉岡武憲、同滝沢逸精各審問の結果をあわせ考えると、抗告人の主張する相手方会社が支出した右の金員は、相手方会社が各営業年度の利益金処分として株主総会の決議に基づき支出した金員以外の金員で、役員報酬として支出されたものであること、相手方会社はその定款第三〇条において取締役及び監査役の報酬は株主総会においてこれを定めその分配は取締役会の決議によることを定め、同株主総会は昭和四二年五月二六日の定時株主総会において役員報酬改訂の件について付議し、昭和四〇年に改訂した役員報酬額につき取締役及び監査役あわせて年額金九〇〇万円以内とする旨を改訂して決議したこと、相手方会社においては、昭和四二年営業年度から常勤の取締役に対し、毎月ごとに一定額で区分支給された報酬以外に、夏期及び年末手当として、昭和四三年度中合計金七二万円、昭和四四年度中合計金一二四万二、五〇〇円、昭和四五年度中合計金一三一万七、五〇〇円を支出しているが、右の各手当及びそれ以外の前記報酬額は昭和四三年度ないし昭和四五年度の各営業年度において年額金九〇〇万円の範囲内で支出されていることが認められ、抗告人主張のように前取締役野原正外三名に支払った金員は決算期における利益金中から支給されるいわゆる賞与ではなく利益の有無にかかわらず経費として支出される取締役報酬の一部と認むべきものである。このように、株主総会の決議で定めた役員報酬の総額を毎月の定期的給与と夏期及び年末の臨時的給与とに分けて支給することは違法ではないというべく、従って、抗告人主張の金員が支出されたとしても、会社の業務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うべき事由はない。なお、抗告人は、右の金員がいわゆる賞与であるとして諸種の見解を披歴する(抗告人の本件申請書中申請の事由四の(三)、同準備書面(第一、二回、第四回参照)ところ、相手方会社の各事業年度の法人税確定申告書(甲第四号証の一ないし三)中の「人件費の内訳書」(記録一〇一丁、九八丁。ただし昭和四三年度については同確定申告書に添付されていない。)の「役員報酬手当の内訳」欄に前記各営業年度ごとの夏期及び年末手当の合計額に相当する金額がそれぞれ「賞与」欄中の「損金経理一欄に掲記され、相手方会社は右各手当を当該営業年度中に役員報酬として支出経理し(甲第八号証の一ないし六の各支払伝票中には「給料」と表示されているものがあるが、利益金の処分によらないで支出する趣旨であることが明らかであるから役員報酬と認むべきことが明らかである。)、他方前記確定申告書中の「所得の金額の計算に関する明細書」(記録一〇四丁、一〇二丁、九九丁)中には税務計算上所得に加算する金額として掲記された「損金の額に算入した役員賞与」として前記手当の合計額に相当する金額が掲記され、かくて税務計算上いったん、損金経理された金額が所得に加算され結局損金不算入と同一に帰する処理がなされているが、それは、あくまでも、法人税法が役員賞与を利益金中から支給される臨時的な給与とみる建前をとっている(同法第三五条)ことから生じた税務計算上のことがらにすぎないと認めるべきであるから、抗告人主張の金員を決算期における利益金中から支給されたいわゆる賞与であって株主総会において利益金処分の承認議決なしに支出されたものであるということはできない。したがって、この点に関する抗告人の主張は採用できない。

(2)次に、抗告人は、相手方会社代表取締役佐藤脩吾、取締役吉岡武憲、同岩瀬玲二は、昭和四六年度中に同営業年度の決算総会前において、賞与請求権がないのにかかわらず合計金五八万六〇〇〇円を役員賞与として相手方会社から支出し不正に着服したと主張するところ、甲第九号証の一、二、乙第七号証、原審における被審人吉岡武憲、同滝沢逸精各審問の結果をあわせ考えると、相手方会社は、昭和四六年七月二三日海運役員報酬金一六万八、〇〇〇円、陸運役員給料金一六万八、〇〇〇円、同年一二月一三日海運役員報酬金一二万五、〇〇〇円、陸運役員給料金一二万五、〇〇〇円以上合計金五八万六、〇〇〇円を支出していること、同金員は昭和四二年から常勤の取締役に対し毎月定額をもって支給される報酬のほかに、夏期及び年末手当として支給されることとなっていた報酬にあたるものであることが認められ、抗告人の主張する金員も右により支出された報酬と解すべく、その主張のように賞与すなわち利益金処分として株主総会の決議により役員に支払わるべきいわゆる賞与と認めることはできない。したがって、抗告人のこの点に関する主張は理由がない。

抗告の理由四について

しかしながら、前掲本件記録中の相手方会社の定款、甲第一九号証、第二二号証の一ないし七、乙第五号証、第六号証、第一〇号証、第一五号証、原審における被審人吉岡武憲、同滝沢逸精各審問の結果をあわせ考えると、相手方会社は、港湾運送事業、海陸運送業及び仲立業、通運事業、一般貨物自動車運送事業、倉庫業、船舶代理業、砂利、砂採取並びに販売業、損害保険代理店業、建設業、ならびにこれら事業に附帯する一切の事業を営むことを目的とする株式会社で、新潟県上越市(旧直江津市)に本店を置き、直江津港を中心にその事業を営んでいたものであること、直江津港においては昭和三七年ごろより戦後初めて五〇〇〇m3余の外材の輸入が開始され、年々増加の一途をたどり昭和四四年には当初の六〇倍余に達する数量にのぼり、その後も年年増加することが予想され地元産業はもちろん隣接長野県産業に及ぼす影響もきわめて大きくなることが考えられていたところ、従来直江津における木材工場は港湾地域の公共用地及び市内数ケ所の民間工場を使用してきたが、工場の分散と年々増加する木材に対処するためにはその狭隘も考えられ直江津港に関係する輸入商社、荷受会社、運送会社、倉庫会社等を中心とする業界において新潟県営の貯木場の建設を要望していたところ新潟県においては昭和四四年度に上越市内福橋地区に三四万余m2の用地を確保し、昭和四五年度当初には一四万余m2の貯木場をはじめ、一〇万m2の木工団地その他附帯地を建設したが、これら建設には起債を含む多額の経費を要したので県としては関係業界から五箇年間に建設費の一部として金二億四二、五五〇、〇〇〇円の経費負担を要望し関係者一同に協力を求てきたので、関係者一同協議の結果、これが建設を要望していた関係もあり、さらにこれが整備拡充を促進する必要が感ぜられたので、その建設費分担に対応できる組織として同港を利用して木材を輸入する者及びこれに関係ある前記業者を会員とする県営直江津貯木場協力会を設立し、同港を利用する有力運送会社としての相手方会社もその会員となり、取締役佐藤脩吾は同会の委員に、取締役岩瀬玲二は監査委員に就任し、従業員石田謙一は同協力会の幹事となったこと、同協力会においては前記県からの要望に応ずるため当分の間会員から県に納入する寄付金を募金するものとし、その方法として、昭和四六年一月一日から、直江津港を経由して輸入する木材につき一m3あたり一〇五円を県に納入することとし、この分担割合につき輸入商社、木材業者、運送業者が各取扱業ごとにそれぞれ金三五円と定めた(その後昭和四六年四月一日入港(接岸)船から、直江津港経由の輸入木材一m3あたり金六〇円、その分担割合は右三業者各取扱業ごとにそれぞれ金二〇円に改められた。)こと、同協力会が募集する寄付金については、昭和四六年一月一八日関東信越国税局長から法人税法三七条三項一号及び所得税法七八条二項一号に規定する地方公共団体に対する寄付金に該当するものと認められ、寄付を行なう法人は各事業年度の所得の計算上損金に算入されることとなったこと、相手方会社は、右に基づき昭和四六年度において金五二五万九六〇八円、昭和四七年度においては同年七月二五日までに合計金二一〇万三、九三三円を分担して納入したことが認められる。右の事実によれば、相手方会社が右協力会において定めた分担割合に応じて寄付支出した金員は、同会社の目的の範囲内であり、かつその目的遂行のために必要かつ有用な金員の支出であると認められる。抗告人は、右の寄付は会社の目的外の行為であり、新潟県から派遣された取締役らが県の意に沿って県の当然負担すべき金員を相手方会社から支出せしめ、地方財政法四条の五によって禁止されている地方公共団体による割当的強制寄付を潜脱し、そのため相手方会社に欠損を生じさせたと主張するけれども、右の寄付が相手方会社の目的遂行のために必要かつ有用なものであることは前記認定のとおりであって、県営貯木場の建設が直江津港に輸入される木材の増加をもたらし、これにより相手方会社の運送取扱量の増加が見込まれることは理の当然であり、他方、新潟県がこれが寄付を割り当て強制的に徴収ないしはこれに相当する行為をしたことを認めるに足る証拠はなく、また、相手方会社がその寄付のために欠損を生じたものと断ずる証拠もないので抗告人のこの点に関する主張は理由がない。

そのほか、抗告人主張の本件申請の事由を一件記録に照らして調べてみても、相手方会社取締役において会社の業務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実あることを疑うべき事由があると認めるに足る証拠がない。

したがって、本件申請を棄却した原決定は相当であって、本件抗告は理由がない。

よって、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のように決定する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 栗山忍 館忠彦)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例